岩石の分類

アンビバレントな分類という行為

全ての「分類」には記載学的な分類(見かけによる機械的分類)と成因論的な分類(素性による分類)があります.記載学的な分類は現場で直ちに名前が付けられるという便利さがある反面,しばしばその物の本質的な側面とは無縁で学術的には無意味な場合があります.一方,成因論的な分類は,研究室に持ち帰って詳しい解析がなされるまで名前が付けられないという不便さがつきまといます.特に岩石の分類ではどちらか一方に徹する事は大変むずかしい作業です.そこで,両者をうまく組み合わせた分類法が考案されて来ました.そうした事情から,ここで述べる分類もいくらかの曖昧さを伴っています.
堆積岩類 火成岩類
火山砕屑岩類 変成岩類

 I.堆積岩類(sedimentary rocks)

地球表層部における堆積作用でできた岩石を堆積岩と総称する.

1)砕屑岩類(clastic rocks)
岩石・鉱物が風化,削剥などの作用により砕けてできた粒子が堆積してできる.
a. 水成岩(aqueous rocks): 河川,湖沼,海などで堆積したもの.堆積岩の圧倒的大部分は水成であるため,火成岩と対立する用語として用いられる
b. 風成岩(aeolian deposit): おもに風の力で運搬・堆積されてできた地層で,主として砂漠などの陸上に堆積したもの

砕屑粒子の粒度による砕屑岩類の分類
 粘土岩(claystone):1/256mm以下*
 シルト岩(siltstone):1/256〜1/16mm*
 砂岩(sandstone):1/16〜2mm
 礫岩(conglomerate):2mm以上
*粘土およびシルトサイズのものを併せて泥岩(mudstone)と呼ぶ.また,泥の中に礫が混ざったものは礫質泥岩(pebblymudstone)と呼ばれる.

2)炭酸塩岩(carbonate rocks)
主として方解石やドロマイトなどの炭酸塩鉱物よりなる岩石
ドロマイト(dolomite): 主として化学的沈殿作用による
石灰岩(limestone): 主として炭酸塩の殻や骨格をもつ生物が集積してできたもの
大理石(marble): 炭酸塩岩が熱の作用などにより再結晶して目に見える大きさの方解石やドロマイト結晶の集合体となったもの

3)チャート(chert)
SiO2が90%以上の細粒な堆積岩.放散虫や珪藻などの微生物の遺骸(化石)が積もったもの,化学的沈殿作用によるものなど多様.日本のチャートのほとんどは,放散虫チャート(radiolarian chert)である.

4)蒸発岩(evaporite)
海がとじ込められてできた塩湖の湖水が蒸発することによって沈殿した鉱物からなる.代表的なものは岩塩で,ソルトレイクが有名.

先頭へ戻る


 II.火成岩類(igneous rocks: マグマが固結してできた岩石)

すべての火成岩類は,マントルに由来する本源マグマの性質により,アルカリ岩系列と非アルカリ岩系列に二分され,それぞれはまた,マグマが固結した場所の深さと有色鉱物の量比,または,SiO2の含有量などによって細分される.
アルカリ本源マグマ→アルカリ岩系列に属する様々な火成岩を生ずる.
非アルカリ岩本源マグマ(ソレアイト質マグマとボニナイト質マグマからなる)→非アルカリ岩系列に属するソレアイト岩系やカルクアルカリ岩系列の火成岩を生ずる.

有色鉱物の量比による分類
超苦鉄質岩類(ultramafic rocks):70%以上
苦鉄質岩類(mafic rocks):40〜70%
中間火成岩類(intermediate rocks):20〜40%
珪長質岩類(felsic rocks):20%以下

SiO2の量比による分類
超塩基性岩類(ultrabasic rocks):45%以下
塩基性岩類(basic rocks):45〜52%
中性岩類(intermediate rocks):52〜66%
酸性岩類(acidic rocks):66%以上
固結した深さによる分類を組み合わせると

1)深成岩類(plutonic rocks)
マグマが地下深部でゆっくりと冷え固まったもので,比較的規模の大きい貫入岩体として存在する.
a. 超苦鉄質深成岩類
かんらん岩(peridotite):主としてカンラン石,輝石類からなる
輝岩(pyroxenite):主として輝石類とカンラン石からなる
ホルンブレンダイト(hornblendite):主として普通角閃石からなる
b. 苦鉄質深成岩類
斑れい岩またはガブロ(gabbros): 主として単斜輝石と斜長石からなる
ノライト(norite):主として斜方輝石と斜長石からなる
c. 中性深成岩類
閃緑岩(diorite):主として角閃石と斜長石からなる
石英閃緑岩(quartz diorite): 上記に少量の石英を伴う
d. 珪長質深成岩岩
トーナライト(tonalite):主として石英,斜長石,角閃石からなる
花崗閃緑岩(granodiorite):主として石英,斜長石,カリ長石,角閃石,黒雲母からなる.カリ長石より斜長石が多い
花崗岩(granites):主として石英,斜長石,カリ長石,黒雲母からなる.カリ長石と斜長石はほぼ等量
閃長岩(syenites):主としてカリ長石,斜長石,少量の石英,黒雲母からなる

2)半深成岩類(hyperbyssal rocks)
マグマが地下の浅い所で比較的急速に冷え固まったもので,岩脈など小規模の貫入岩体として存在する.
a. 超苦鉄質半深成岩類(半深成岩に分類されるものはない)
b. 苦鉄質半深成岩類
ドレライト(dolerite):主として単斜輝石と斜長石からなる.粗粒玄武岩とも言う
輝緑岩(diabase):ドレライトが変質や変成を受けて,単斜輝石の一部または全部が角閃石に変わったもの.この名はヨーロッパや日本で用いられるが米国では用いられない
c. 中間組成の半深成岩類
石英閃緑岩ポーフィリイ(quartz diorite porphyry):この名のように,深成岩の名前の後にポーフィリイを付けると半深成岩の名前になる
ひん岩(porphyrite):上記と同じもの.最近は学術用語としてはあまり用いられないが,地質コンサルタント業界の用語としては定着している
d. 珪長質半深成岩類
花崗斑岩(granite porphyry):花崗岩組成で斑状のもの
石英斑岩(quartz porphyry):斑晶が主として石英よりなるもの
斜長斑岩(plagiophyre):斑晶が主として斜長石よりなるもの
フェルサイト(felsite):完晶質で細粒なもの

3)火山岩類(volcanic rocks)
マグマが地表に噴出し,溶岩として固結したもの.細粒の岩脈類も火山岩に含める事がある.
a. 超苦鉄質火山岩類
コマチアイト(komatiite):始生代から原生代初期に限られて生成された
b. 苦鉄質火山岩類
玄武岩(basalt)
粗面玄武岩(trachybasalt):アルカリ岩系列の玄武岩
c. 中間組成の火山岩類
安山岩(andesite):カルクアルカリ岩系列

粗面安山岩(trachyandesite):アルカリ岩系列
デーサイト(dacite)*
*デーサイトを次の珪長質火山岩類に分類する場合もある
d. 珪長質火山岩類
流紋岩(rhyolite)
粗面岩(trachyte):アルカリ岩系列

 III.火山砕屑岩類(pyroclastic rocks)

火山の爆発的噴火により,固結したマグマが粉砕され周囲に飛び散り堆積したもの.火成岩でもあり,堆積岩でもある.噴出される物質は,噴出時にはすでに個体であるか,あるいは液体(マグマ)であっても堆積する時には少なくとも表面は固結している.

1)噴出物のサイズと形態にる分類
火山弾(bomb):直径32mm以上で,噴出の時に完全に液体か一部分液体であったもの
火山岩塊(block):直径32mm以上で,噴出の時に個体であったもの
火山礫(lapilli):直径32〜4mmのもの
火山灰(ash):直径4mm以下のもの
軽石(pumice):大きさに関係なく,比較的酸性のマグマが固結した白っぽい多孔質のもの
岩滓(scoria):比較的塩基性のマグマが固結した黒色〜赤褐色で多孔質なもの

2)含まれる岩片の種類による分類
凝灰集塊岩(agglomerate):おもに火山弾よりなるもの
火山角礫岩(volcanic breccia):おもに火山岩塊よりなるもの
火山礫凝灰岩(lapilli tuff):おもに火山礫よりなるもの
凝灰岩(tuff):おもに火山灰よりなるもので,粒子の種類によりさらに3種に細分される.
 ガラス質凝灰岩(vitric tuff)
 結晶凝灰岩(crystal tuff)
 石質凝灰岩(lithic tuff)

凝灰角礫岩(tuff breccia):火山岩塊,火山礫,火山灰がまざったもの
熔結凝灰岩(welded tuff):瞬時に多量の噴出物が堆積すると,高温の状態が比較的長時間持続するので,火山ガラスの粘性流動によって構成粒子が結合され,また軽石は押しつぶされて気泡が抜け溶岩に近い性質を示すようになる.このような堆積物が固結したもの.

一旦堆積した噴出物が河川の運搬作用などにより二次的に再堆積されたものは,火山性砂岩(volcanic sandstone)などと呼ばれ,一般の堆積岩類に分類されるが,火山砕屑岩類との区別は容易ではない.

 IV.変成岩類(metamorphic rocks

元あった岩石が,周囲の温度・圧力が高くなったために,構成鉱物の組み合わせや組織などが変化してできた岩石)

1)広域変成作用でできた変成岩
a. 結晶片岩(crystalline schist)
主として高い圧力と差応力のために変成鉱物が平行配列しながら再結晶し,片状構造を形成したもの.源岩の違いによって次にように分類される.
 泥質片岩(pelitic schist):泥岩起源.黒色片岩(black schist)または石墨片岩(graphite schist)と呼ばれた事もある.
 砂質片岩(pssamitic schist):砂岩起源
 礫質片岩(conglomerate schist):礫岩起源
 珪質片岩(siliceous schist)≒石英片岩(quartz schist):チャートなどの珪質岩起源
 石灰質片岩(calcareoous schist):石灰岩起源
 石英・長石質片岩(quartzo-feldspathic schist):主として石英と長石からなり,多くは酸性凝灰岩起源と考えられている.
 緑色片岩(greenschist)≒苦鉄質片岩(mafic schist)≒塩基性片岩(basic schist):これらはいずれも苦鉄質火成岩(多くは玄武岩)を起源としたもの.緑色片岩相のものでなくても緑色片岩と呼ぶのが一般的である.もっと高圧の藍閃石片岩相のもので,多量の藍閃石が形成されている場合は青色片岩(blueschist)と呼ばれる.

b. 片麻岩(gneiss:“ナイス”と発音する)
主として高い温度と圧力のために苦鉄質鉱物の卓越した部分と珪長質鉱物の卓越した部分へと分化し,しま状構造を形成したもの.一般に鉱物の平行配列が伴われるが,そうでなくてもよい.花崗岩起源の片麻岩を正片麻岩(orthogneiss)と呼び,その他の砂岩・泥岩などを起源とするものを準片麻岩(paragneiss)と呼ぶ.これは源岩の違いによって結晶片岩と同様に分類される.例えば,泥質片岩に相当するものは泥質片麻岩(pelitic gneiss)である.ただし,緑色片岩に相当するものは,“緑色片麻岩”と呼ばずに角閃岩と呼ばれる.
角閃岩(amphibolite):角閃岩相の変成作用を被り,主としてホルンブレンドと斜長石の組み合わせになったもの.角閃石がホルンブレンドでないものは,角閃岩と呼ばない方が良い.もっと高圧のざくろ石角閃岩相のものは,ざくろ石角閃岩(garnet-amphibolite)と呼ばれる.


2)接触変成作用でできた変成岩
ホルンフェルス(hornfels): 付近にマグマや熱水などの熱源が進入したために高温となり,粗粒化した無定向の鉱物結晶の集合体となったもの.これも結晶片岩や片麻岩と同様,源岩毎に泥質ホルンフェルス(pelitic hornfels),砂質ホルンフェルス(pssamitic hornfels)などと呼ばれる.ただし,石灰岩起源のものは結晶質石灰岩(crystalline limestone)=大理石(marble)と呼ばれる.

3)動力変成作用でできた変成岩(変形岩)
マイロナイト(mylonite): 強い差応力のために鉱物が細粒再結晶化して,平行配列したもの.他の変成岩の再結晶作用が,粗粒化しながら起こるのと対照的.源岩名を前に冠し,例えば花崗岩起源のものは花崗岩マイロナイト(garanite mylonite)と呼ばれる.


4)その他の変成岩
海洋底変成作用などにおいて,源岩の組織はそのままで鉱物種だけが置き換えられる場合がある.このようなものは源岩が明らかなので,源岩の名前を用いて,変斑レイ岩(metagabbro)変玄武岩(metabasalt)などと呼ばれる.カンラン岩が数百度の温度で水を吸って変質すると蛇紋岩(serpentinite)に変わる.